06-6366-0636

事業性融資推進法に基づく「企業価値担保融資」

鈴木のコラム

2026.08.03

事業性融資推進法に基づく「企業価値担保融資」

1 はじめに

 令和8年(2026年)7月30日付の日本経済新聞朝刊に「再建資金も将来性で調達」との見出しで、事業性融資推進法に基づく企業価値担保融資が、メガバンクらの協調融資により、投資ファンド傘下に入った元上場企業に対する再生支援資金として利用された事例が紹介されていました。
 そこで今回は、今後利用が増えていくと考えられる「事業性融資推進法に基づく企業価値担保融資」について、述べてみたいと思います。

2 事業性融資推進法について

 令和6年(2024年)6月7日に可決・成立し、令和8年(2026年)5月25日に施行された事業性融資推進法(事業性融資の推進等に関する法律。令和6年法律第52号)は、不動産や経営者保証に頼らず、企業の事業内容や将来性、無形資産に着目した融資を促進するため、特にスタートアップ企業や中小・中堅企業の資金調達や事業承継、事業再生、M&A・プロジェクトファイナンスなどの場面で活用されることを企図して制定されました。

 同法が定めているのは、主に「企業価値担保権」の創設や支援機関の認定制度などで、主なポイントは

 ① 企業価値担保権の創設: 会社の総財産(ノウハウ、顧客基盤などの無形資産を含む事業全体)を一体として担保にする新しい権利の創設。
 ② 保証や担保に依存しない融資: 不動産や経営者の個人保証がなくても、将来の成長性や事業実態を評価して資金調達をしやすくする。
 ③ 対象と活用場面: 主に会社法上の会社が対象。
 ④ 推進体制の整備: 金融庁などに事業性融資推進本部が設置され、専門知識を持って助言・指導を行う機関の認定制度が導入された。

といった点です。

3 企業価値担保権とは

 企業価値担保権とは、「企業価値担保権信託契約」によって設定される、一体としての会社の総財産(将来において会社の財産に属するものを含む。)を目的として、その会社に対する特定被担保債権及び不特定被担保債権を担保するために設定される、新しい担保権です。

「企業価値担保権信託契約」とは、内閣総理大臣の免許を受けた「企業価値担保権信託会社」が、

  • イ:企業価値担保権の管理及び処分をすること、
  • ロ:特定被担保債権者のために、企業価値担保権の実行手続において、配当可能額(第百六十六条第二項に規定する配当可能額をいう。ハにおいて同じ。)からハに規定する不特定被担保債権留保額を控除した額を限度として金銭の配当を受け、当該金銭の管理及び処分をすること、
  • ハ:不特定被担保債権者のために、配当可能額に応じ、債務者について行われ、又は行われるべき清算手続又は破産手続の公正な実施に要すると見込まれる額として政令で定めるところにより算定した額(第七十条第四項に規定する裁判所が当該清算手続又は破産手続の公正な実施に特に必要と認める場合にあっては、当該政令で定めるところにより算定した額に当該裁判所が定める額を加えた額)(第六十二条第一項及び第五節において「不特定被担保債権留保額」という。)の金銭の配当を受け、当該金銭の管理及び処分をすること

を信託の目的とし、かつ、

  • 二 特定被担保債権及び不特定被担保債権を担保するために企業価値担保権信託会社を企業価値担保権者として企業価値担保権を設定すること。
  • 三 特定被担保債権の範囲を定めていること。
  • 四 特定被担保債権を有し、又は有すべき者を受益者として指定すること(この場合において、当該者による受益権の取得は、次のイ又はロに掲げる者の区分に応じ、当該イ又はロに定める時に、その効力を生ずること。
    • イ 特定被担保債権(第六条第四項第一号から第三号までに掲げる財産上の請求権に限る。)を有し、又は有すべき者 企業価値担保権信託会社に対して当該受益権の取得について承諾をした時(当該特定被担保債権を有している場合に限る。)
    • ロ イに掲げる者以外の者 企業価値担保権信託会社に対して当該受益権の取得について承諾をした時)
  • 五 不特定被担保債権を有する者を受益者とすること。
  • 六 企業価値担保権が消滅する前に企業価値担保権信託契約に係る信託が終了した場合の信託法(平成十八年法律第百八号)第百八十二条第一項第二号に規定する帰属権利者を債務者とすること。
  • 七 その他内閣府令・法務省令で定める事項

を内容とする契約です。

 つまり、企業価値担保権とは、政府の免許を得た「企業価値担保権信託会社」が、同担保権を設定する「企業価値担保権信託契約」(債務者を委託者とし、企業価値担保権信託会社を受託者とする、債務者と企業価値担保権信託会社との間で締結される信託契約)を締結することによって発生する担保権である、ということができます。なお、債務者と設定者は株式会社を想定しています。
 企業価値担保権信託契約の書式例その他詳しい解説は、金融庁のホームページ(https://www.fsa.go.jp/policy/kigyoukachi-tanpo/index.html)に掲載されています。

4 企業価値担保権の被保全権利

 企業価値担保権は、「特定被担保債権」と「不特定被担保債権」をその被保全権利とします。

 「特定被担保債権」とは、上記に述べた「企業価値担保権信託契約」で定められた特定の債権又は一定の範囲に属する不特定の債権(これを「対象債権」といい、対象債権が譲渡された場合のその債権や、弁済による代位によって弁済者が取得した代位弁済請求権等も含みます)を言い、「不特定被担保債権」とは、債務者(株式会社)が清算手続きに入った場合、または破産手続開始の決定を受けたときにおける当該債務者に対する財産上の請求権であって、同法第四百七十六条に規定する清算株式会社若しくは同法第六百四十五条に規定する清算持分会社の財産又は破産財団から弁済又は配当を受けることができるもの(企業価値担保権の実行手続終結の決定があるまでに弁済又は配当を受けるものを除く。)を言います。

 「特定被担保債権」と「不特定被担保債権」の優劣は、「特定被担保債権」が融資を行った金融機関が持つ担保権として、担保権の実行時に優先的に弁済を受けられるのに対し、「不特定被担保債権」は、一般債権者として担保権が実行されても、総財産の換価額から一定割合(政令で定められた料率)の「不特定被担保債権留保額」が必ず取り分けられ、優先全額回収とはならなくとも、留保された原資の中から一般債権者の債権額に応じて分配を受けることができる債権です。

5 企業価値担保権の公示方法

 法15条によって、企業価値担保権の得喪及び変更は、債務者の本店の所在地において、商業登記簿にその登記をしなければ、その効力を生じない(ただし、一般承継、混同又は特定被担保債権の消滅による得喪及び変更については、この限りでない。)とされており、複数の企業価値担保権相互の順位は、その登記の前後によるとされています(法16条)。

 企業価値担保権の順位の変更は、各企業価値担保権者の合意によってすることができるとされ(ただし、利害関係を有する者があるときは、その承諾を得なければなりません)、企業価値担保権者が当該合意をするには、その企業価値担保権信託契約に係る全ての特定被担保債権者の同意を得なければなりません(ただし、企業価値担保権信託契約に別段の定めがあるときは、その定めるところによります)。そして、上記の順位の変更は、その登記をしなければ、その効力を生じない、とされています(法17条)。

6 他の担保権との優劣関係

 企業価値担保権の被保全債権の債務者の財産の上に、先取特権、質権、抵当権、譲渡担保権または留保所有権等と企業価値担保権とが競合する場合には、それらの優先権の順位は、他の担保権に係る登記、登録その他の対抗要件の具備と企業価値担保権に係る登記の前後によります。

 一般の先取特権又は企業担保権と企業価値担保権とが競合する場合には、企業価値担保権は、一般の先取特権又は企業担保権に優先します。

 特別の先取特権(民法第三百二十五条に規定する先取特権を除く。)と企業価値担保権とが競合する場合には、企業価値担保権者は、同法第三百三十条第一項の規定による第一順位の先取特権と同一の権利を有します。

 民法第三百三十七条又は第三百三十八条第一項の規定に従って登記をした同法第三百二十五条に規定する先取特権(同条第一号又は第二号に係るものに限る。)は、企業価値担保権に先立って行使することができます。

 但し、債務者が他の担保権の目的である財産を取得した場合における当該他の担保権は、企業価値担保権に先立って行使することができます(以上、法18条)。

7 企業価値担保権の実行

 企業価値担保権は、担保権者の裁判所に対する実行手続き開始の申し立てにより実行されます。管轄裁判所は、債務者の本店所在地または主たる営業所の所在地を管轄する裁判所です。

 企業価値担保権も抵当権などほかの担保権と同じですから、その実行には、被保全権利の債務不履行など、実行のトリガーとなる事象の発生と、実行の申し立てが必要となるわけです。すなわち法84条は、実行手続開始の申し立てについて①申立債権の内容及び原因、②申立債権に係る企業価値担保権の内容、③申立債権に係る弁済期の到来を明らかにして行うよう求め、さらに、申立人は、申立債権及び当該申立債権に係る企業価値担保権の存在並びに当該申立債権に係る弁済期の到来を証明しなければならないとされています。

 企業価値担保権の実行手続開始の申し立てを受け、裁判所が実行手続開始の決定を出すと、企業価値担保権のその担保価値は、会社の「一体としての財産」ですから、破産類似の手続きが取られ、管財人の下で会社財産が換価され、特定被担保債権および不特定被担保債権について、配当がなされることになります。

 但し、企業価値担保権の最大の眼目は、当該企業が保有している不動産や動産といった、目に見える「モノ」の価値だけでなく、ブランド力や事業収益性といった、事業全体としての価値を担保化した点にあるのですから、「換価」は会社財産のばら売りではなく、事業全体を(当該事業における雇用関係や取引関係も含め)丸ごと売却する、「事業譲渡」の方法がとられます。

8 最後に

 以上、事業性融資推進法に基づく企業価値担保権の概要についてみてきました。

 企業価値担保権は、冒頭の新聞記事にもありました通り、「モノ」としての財産は乏しいけれども、有力な営業ツール、製品(とそれにまつわる知的財産権)を保有していてキャッシュフローは潤沢だという事業について、M&Aの失敗などに起因して巨額に膨らんだ負債の整理や、さらなる事業発展のための投資資金の需要を満たすものと思われます。今後の金融機関の融資姿勢に注目です。

ご相談申し込み

出張相談も可能です

対象地域 大阪府全域、兵庫県西宮市、尼崎市、宝塚市、伊丹市、神戸市 、その他応相談

アクセス Access

530-0047
大阪市北区西天満3丁目14番16号西天満パークビル3号館2階
地下鉄谷町線・堺筋線「南森町」駅 ②番出口 徒歩5分
京阪電車 中之島線「なにわ橋」駅 ④番出口 徒歩8分
アクセス情報

相談内容に併せて、
より詳しい相談専門サイトを
ご用意しております。