改正公益通報者保護法の概要と、公益通報に対する対応の注意点について
鈴木のコラム
2026.08.03
改正公益通報者保護法の概要と、公益通報に対する対応の注意点について
当、ひなた法律事務所は公益通報の第三者窓口も受任・担当しておりますが、今年12月1日施行の改正公益通報者保護法の概要について解説するとともに、今後の公益通報に対する対応の注意点について論じてみたいと思います。
第1 改正公益通報者保護法について
改正公益通報者保護法(令和7年法律第62号)は、2025年6月11日に公布され、2026年12月1日に施行されます。改正法の主なポイントは、①事業者が公益通報に適切に対応するための体制整備の徹底と実効性の向上、②公益通報者の範囲拡大、③公益通報を阻害する要因への対処、④公益通報を理由とする不利益な取り扱いの抑止・救済の強化です。
1 事業者が公益通報に適切に対応するための体制整備の徹底と実効性の向上のための法改正
(1)政府の監督権限の強化と罰則規定の新設
現行法においても、公益通報を受けた事業者は、通報対象事実の調査や是正に必要な措置をとる業務に従事する者をあらかじめ定めること、公益通報者の保護を図るとともに、公益通報の内容の活用により国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守を図るため、公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとらなければならない、とされています(但し常時従業員数300人以下の事業所は義務が緩和されています)(現行法11条)。そのうえで、現行法では、上記の各義務の履行状況について報告を求め、または助言、指導もしくは勧告をすることができ、勧告を受けたものがこれに従わなかったときは、その旨を公表することができるとしています(現行法15、16条)。
この度の改正法は、15条の2で、政府による勧告に従わなかった事業者に対し、当該勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができるとしたほか、改正法16条は、政府による報告徴求権限や立ち入り調査権限を設けるなど、政府の監督権限が著しく強化されています。さらに、上記命令に違反した場合や報告懈怠・虚偽報告、検査拒否に対して刑事罰を設けるなど(改正法21条2項、24条)政府の監督に違背する行為には厳しいペナルティが課せられることになります。
(2)公益通報に関する体制の周知義務
そのほか、公益通報の実効性の向上のための法改正としては、改正法11条2項において、現行法で求められている「公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」のほかに、通報者(労働者等)に対し体制等の周知等必要な措置を取らなければならないこととされました。
2 公益通報者の範囲拡大に関する法改正
これまでの(改正前の)公益通報者保護法では、保護の対象が労働者(派遣労働者を含む)、会社の役員など、一定の組織に労働者または役員等として所属している(いた)人たちが対象となっており、いわゆる事業者と請負契約を結んで仕事を完成させ、納品するフリーランスの人たちは保護の対象とはされていませんでした。
しかし改正法2条3項で、公益通報者にフリーランス(現にフリーランスとして業務受託している人だけでなく、公益通報の1年以内に業務受託している人を含む)が加えられることになり、フリーランスの人が公益通報を行ったことにより不利益な取り扱いを受けることも禁止されました(改正法3条、5条)。
3 公益通報を阻害する要因への対処
改正法は、その11条の2で事業者に対し、労働者等公益通報をする可能性のある人に対し、正当な理由なく、公益通報をしない旨の合意をすることを求めたり、公益通報をした場合に不利益な取り扱いをすることを告げたりするなどして、公益通報を妨げてはならないとして、こうした合意等は無効とする旨新設しました。
また、改正法11条の3は、事業者が正当な理由なく、公益通報者である旨を明らかにすることを要求するなど、公益通報者を特定することを目的とする行為をしてはならないと明記しました。
4 公益通報を理由とする不利益な取り扱いの抑止・救済の強化
(1)公益通報と不利益取り扱いの因果関係に関する立証責任の転換
改正法3条3項は、「公益通報者に対する解雇等特定不利益取扱いが第一項各号に定める公益通報をした日(前条第一項第一号に定める事業者が第一項第二号又は第三号に定める公益通報がされたことを知って当該解雇等特定不利益取扱いをした場合にあっては、当該事業者が当該公益通報を知った日)から一年以内にされたときは、前項の規定の適用については、当該解雇等特定不利益取扱いは、当該公益通報をしたことを理由としてされたものと推定する。」という新たな推定規定を設けました。
現行法では、公益通報者が受けた不利益取り扱いが「公益通報をしたことが原因であること」を通報者側が立証する必要がありましたが、改正法は、そうした因果関係を通報者が立証する必要をなくし、事業者に比べて弱い立場にある公益通報者をより保護しやすくするため、通報から一定期間のうちになされた不利益取り扱いは、いわゆる「公益通報に対する報復」と推定することとしました。この点は、公益通報者保護の観点から極めて重要な改正点です。
(2)不利益取り扱いに対する刑事罰の新設
改正法21条1項は、事業者が公益通報をした労働者等に対し、通報を理由として解雇等の不利益取り扱いをした場合、六月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金に処するとしました。
また、改正法23条は、法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、労働者等に対し解雇等の不利益取り扱いをした場合には、その行為者を罰するほか、その法人に対して3000万円以下の罰金刑を課すものとしました。
第2 改正法を見越した公益通報に対する体制の整備について
上述の通り、改正法では、法人または事業者に対する政府の監督権限が強化され、監督官庁の命令等に違反したり調査に協力しなかったりした場合に刑事罰が科されることとなり、また、公益通報に対する報復的不利益取り扱いについては非常に厳しい制裁が科されることになりました。
事業主や法人の役員の方におかれては、「内部告発者を守ることで法人や事業者の法令遵守を促進する」という公益通報制度の意義を改めて確認の上、以上述べた改正法の要点を念頭に置いたうえで、万が一にも違反することがないよう(刑事事件となる可能性が高くなります)、公益通報を取り扱う部署のみならず、労働者等への指導監督、懲戒権限を持つ管理職・役員間においても、改正法の要点をきちんと理解しているか、自社における公益通報体制が万全であるか(通報を受け付ける窓口が労働者等への指導監督、懲戒権限を持つ管理職・役員から独立した窓口となっているか、通報に対する正しい対応がとられているか(通報者の秘密の保持、通報者の探索の禁止等))を改めて見直す必要があると考えます。特に、法が定める公益通報に当たる内容の通報かどうかを判断することや、別件で懲戒の対象となる可能性のある従業員からの公益通報への対応は慎重に対処すべきで、通報受付窓口を外部の独立した弁護士に委託し、その判断を求めるなど、初動的判断でつまずくことがない体制を構築したいものです。
当事務所は公益通報の外部窓口についても受任しています。ご相談はお気軽にご連絡ください。
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