医療法人の定款で規定された「退社」の解釈が争われた裁判例
寺川のコラム
2022.02.23
医療法人の定款で規定された「退社」の解釈が争われた裁判例
法人の定款に関する裁判例(東京地裁令和3年6月7日判決)が判例時報2504号に掲載されていましたので、紹介させていただきます。

事案の概要
医療法人Yの定款では、社員の資格喪失について、以下のとおり、規定されていました。
第7条 社員は、次に掲げる理由によりその資格を失う。 一 除名 二 死亡 三 退社 2 社員であって、社員たる義務を履行せず本社団の定款に違反し又は品位を傷つけ 行為のあった者は、社員総会の決議を経て除名することができる。 第8条 前条の定める場合の外やむを得ない理由のあるときは、社員はその旨を理事長に 届け出て、その同意を得て退社することができる。 第9条 社員資格を喪失した者は、その出資額に応じて払戻しを請求することができる。 |
医療法人Yの社員Xは、定款第7条の「退社」は、第8条の場合と異なり、理事長の同意を要さずに「退社」できる等と主張し、Yの理事長の同意を得ないままYからの「退社」を主張し、出資金の払い戻しを求めたケースです。
Yは、Xの主張に対しては、社員の「退社」には理事長の同意が必要であるとして、Xの請求の棄却を求めました。
裁判所の判断
裁判所は、Xの主張のとおり定款を解釈すると、「退社」について、理事長の同意を要する場合(第8条)とこれを要しない場合(第7条1項3号)が生じることとなり、この定款における「退社」の概念の統一が損なわれるなどを理由に、第7条1項3号の「退社」と第8条の「退社」を別異の概念であると直ちに認めることは相当ではないとしました。
そして、
①この定款において「退社」の手続について規定しているのは第8条のみであること、
②この定款は、Y設立時に定められたものであり、Y設立時の出資持分をみるとごく少数の者が多額の持分を有している状況で、Yの存立が直ちに危うくなるような社員による自由で一方的な意思表示による退社及びこれに伴う持ち分(出資金)の払い戻しを認めたものとは考え難いこと、
③出資持分のある医療法人においては、出資持分の払戻請求によりその存続が脅かされる事態が懸念され、平成19年以降は出資持分のある医療法人の新設はできないこととされ、既存の出資持分のある医療法人についても出資持分のない医療法人に円滑に移行できるようにするためのマニュアルが厚生労働省により作成・整備されていること、
から、第8条の規定は、第7条1項3号の「退社」についての手続を定めた規定であるとして、理事長の同意のないXの「退社」を認めず、Xの請求を棄却しました。
コメント
なかなか法人を設立する段階で、法人内の紛争を想定することは難しいですし、たとえ想定できたとしても「そんな事態は生じないだろう。。」と見過ごしてしまうこともあるのではないかと思います。
法人の設立の時って、その他にもたくさん考えなければならないことがあったり、時間に制約があったりと、なかなか定款の内容をじっくり検討するということは難しいと思われたりするのではないでしょうか。
しかし、定款は、法人の運営をするための基本的なルールを定めた非常に重要なものです。将来の紛争を未然に防いだり、万が一、紛争が生じたとしても紛争解決がしやすいような内容にするためにも、専門家のチェックをしてもらうことをおススメします。
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