停止条件付遺言の裁判例
寺川のコラム
2022.02.14
停止条件付遺言の裁判例
遺言書に関する裁判例(東京地裁令和2年7月13日判決)が判例時報2485号に掲載されていましたので、紹介させていただきます。
代表的な遺言の方式として、公正証書遺言と自筆証書遺言が挙げられますが、紹介させていただく最高裁判例は自筆証書遺言に関するものです。

停止条件付遺言
民法985条2項には、「遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる」と規定しています。「停止条件」とは、将来発生することが不確実な事実を契約等の効力の発生要件とする場合の不確定な事実のことをいいます。例えば、住宅ローンについて金融機関の承認を得ることを条件とする不動産売買契約において、「住宅ローンについて金融機関の承認を得る」という将来発生することが不確実な事実が「停止条件」です。
事案の争点
本件では、遺言者Aさんが自筆証書遺言を作成した当時、妻Bさんと長男Zと長女Xがいました。
Aさんが作成した遺言書の本文は、封印のある封筒に封かんされていました。同封筒には、Aさんの手書きで各記載がされており、遺言書本文で用いられたAの印章と同一の印章によって裏面に封印がなされており、裏面には「私がBより先に死亡した場合の遺言書」との記載があるものでした。
ところが、Aさんの妻Bさんは、Aさんより先に亡くなり、その後、Aさんが亡くなったことから遺言書の効力が争われました。
本件の争点は、遺言書本文が封かんされた封筒の裏面に記載された「私がBより先に死亡した場合の遺言書」との文言の効力でした。
裁判所の判断
裁判所は、遺言書本文とこの封筒の裏面に記載された文言は一体のものとして作成されたものと認定しました。
そして、本件遺言は、遺言者Aさんの死亡時にBさんが生存していることを停止条件としたものであるとし、BさんがAさんの生前に死亡したことにより条件が成就しないことが確定し、本件遺言の効力を失ったものと認めるのが相当と判断しました。
コメント
Aさんは、自分が亡くなった後の妻Bさんの生活を大変心配し、Bさんが平穏に生活できるように願って遺言書を作成した事情があったようです。その趣旨を遺言本文を封印した封筒の裏面に記載し、結果的にその趣旨どおりの判断されました。
しかし、相続人間で遺言書の効力について争いが起こること自体、遺言者Aさんの望むところではなかったはずです。遺言書を作成する際は、争う余地をできるだけなくすよう要式などを整える工夫が必要になります。
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