認知症に罹患していた遺言者の遺言能力が認められた裁判例
寺川のコラム
2022.02.04
認知症に罹患していた遺言者の遺言能力が認められた裁判例
遺言書に関する裁判例(広島高裁令和2年9月30日判決)が判例時報2496号に掲載されていましたので、紹介させていただきます。
代表的な遺言の方式として、公正証書遺言と自筆証書遺言が挙げられますが、紹介させていただく裁判例は公正証書遺言に関するものです。
公正証書遺言
遺言者が、公証人役場に行くか、公証人に出張を求めて公証人に2人の証人の立会のもと作成してもらうのが公正証書遺言です。遺言書の内容が書き換えられるおそれはありませんし、公証人と2人の証人が関与して作成されますので、自筆証書遺言と比較して後に遺言書の有効性を争いにくくなるといえます。

紹介する裁判例
争点
本件は、アルツハイマー型認知症に罹患していた遺言者が、遺言作成当時、遺言内容について理解していたか否かが検討され、遺言の有効性が争われた事案です。
本件では平成13年に作成された公正証書遺言(本件遺言)の有効性が争われました。
裁判所の判断の概要
裁判所は、
●本件遺言をした当時、遺言者は少なくともアルツハイマー型認知症の初期症状の様子を呈していましたが、同認知症の確定診断を受けておらず、日常生活は自立し、十分ではないが自分の意思を伝達する能力が認められること、平成13年において遺言者の要介護度は1から2へ変更された程度であること、本件遺言作成の際、遺言者は公証役場まで出向いてることなどを考慮すると、遺言者に遺言能力がなかったと疑わせるほどの重度のアルツハイマー型認知症であったと認めることができない。
●本件遺言は、本件土地をYに相続させる旨のみ記載しており、その内容は明確で複雑なものではなく、遺言者の所有する不動産は本件土地以外になく、本件土地と他の不動産と取り違えるおそれもないなど、遺言者において、このような内容の遺言をすることができないというほどではない。
●本件では、遺言者において、本件遺言を真意にしたことを疑わせる事情があるとまでいえない。
として、遺言者には、本件遺言をする能力はなかったものとは認められないなどとして、本件遺言は有効であると判断しました。
コメント
ご紹介した裁判例のように公正証書遺言であっても、相続人間の感情的な争いがあるケースでは、遺言の有効性が争われたり、問題になったりすることはめずらしくありません。
当事務所では、多くの経験を踏まえて、公正証書遺言の有効性を巡る争いをできるだけ回避できるようにサポートとアドバイスをさせていただきます。
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