株式を会社に売却するときはご注意ください!

弁護士の寺川拓です。

定期的に行われている「租税法」を勉強するゼミに参加してきました。今回のテーマは「譲渡所得課税」でした。

1 譲渡所得課税は、資産の値上りによって得た利益をその資産の所有者が手放すときに課税する制度です。

つまり、Aさんが3000万円で購入した不動産をBさんに4000万円で売却したという場合、AさんがBさんに不動産を4000万円で売却したときに、Aさんが不動産の値上りによって得た利益1000万円(=4000万円-3000万円)を所得として課税する制度です。

2 基本的には、このように譲渡した資産の値上りによって得た利益について課税される制度ですので、購入したときの価格より低い価格で売却した場合は課税がされません。

例えば、Aさんが購入した3000万円の不動産が値上りして時価4000万円になっているのにBさんに2000万円で売却したとすると、Aさんには値上りによる利益が発生していませんので、譲渡所得課税がなされません。

3 ただし、個人が法人に時価よりも低い価格で売却するときは注意が必要です。なぜなら、個人が法人に対し、

①無償で資産を譲渡する場合

②時価の2分の1未満の対価によって資産を譲渡する場合には、「時価で譲渡したもの」とみなして譲渡所得税が課される可能性があるからです。

これを「みなし譲渡課税」といいます。

例えば、取得した会社の株式を、自己株式の取得制度(会社法155条参照)によって、会社に売却する以下のようなケースを検討してみます。

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Aさんは、付き合いのあったBさんが経営するX社の株式1万株を100万円で取得したのですが、Aさんの経済的な事情により、X社がAさんよりX社1万株を100万円で買い戻しました。

ところで、会社の業務が好調であったことからX社の株式の時価は1万株が300万円にまで値上りしていましたが、AさんとBさんとの関係を考慮して、AさんがXへ売却する価格をAさんが取得した価格と同じ1万株10万円としたものです。

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Aさんは、100万円で取得した株式を100万円で売却するので資産の値上りによる利益が発生していないとして、株式の売却について譲渡所得課税はなされないとも思えます。

しかし、このケースでは、個人(Aさん)から法人(X社)への②時価(300万円)の2分の1未満の対価による(100万円)資産を譲渡する場合にあたりますので、「みなし譲渡課税」が適用されます。

したがって、Aさんは、100万円で取得した株式を時価300万円で売却したとみなされますので、200万円の譲渡所得があったとして課税されてしまうのです。

Aさんに何らの経済的利益がないのに課税がされてしまうのは一般的な感覚では理解できないところです。この点については、法人が資産を取得してしまうとその資産を手放すことが通常考えられず、以後、資産の値上りによって課税する機会が失ってしまうことから、法人が取得する時までに発生した資産の値上り益を課税しておくために法人に対する無償譲渡や低額譲渡が厳しく「みなし譲渡課税」の対象となるという説明がなされています。このような説明も、個人でも資産をなかなか手放さないことも考えられますし、法人が永遠に存続するわけでもないですので、個人に対する譲渡と法人に対する譲渡を区別することについては疑問がないわけではありません。

上記のようなケースの他、個人と法人との間の紛争を解決する手段として、個人から法人へ資産を譲渡することがあります。この場合、譲渡される資産の時価がいくらであるか留意して手続を進めないと、気づかないところで譲渡所得税が課せられることがあるので十分に注意が必要です。